保存鉄道にイギリスの鉄道文化の神髄を見る。

ひょんなことでロンドンに行き、そしてひょんなことで1日空いた。さて、ロンドンに来た鉄道バカは何をすれば良いのか。

模型好きなら、模型店巡りというのが良いかもしれないが、実はイギリスは鉄道模型界ではやや異端だ。やはり島国だからなのか、ポピュラーなのはHOゲージに近いが、「OO(ダブル・オー)ゲージ」なるもの。鉄道発祥の地イギリスの車両が中心の「ホーンビー」というのがメジャーメーカーで愛好家も少なくないが…。見ているだけなら楽しいが、やはりメルクリンなどメジャーHOのユーザーとしては、レールを買う所から始めなくてはならず…。

しかも、ロンドンと言う所は意外に模型店が少ない。ピカデリーサーカスとオックスフォードサーカスの間の大型玩具店「ハムリー」の最上階はそこそこ揃っているが、まぁ3、40分もあれば堪能しつくせるだろう。ロンドン交通局の博物館もまぁまぁ面白いが、やはり博物館に行くならヨークの鉄道博物館。しかし、今回はそこまでの時間は無く…。

そこでイギリスと言えば「保存鉄道」であろう。

廃線になった鉄道路線で、ファンやボランティアが本物の機関車を走らせて、文化遺産として残す、というイギリスならではの鉄道趣味といえる。1日あればロンドンからでも日帰りで行けるのでは?と探してみた所…、見つけたのが「ウォータークレス・ライン」という10マイル程の路線を使った保存鉄道。調べると1日に5、6本の蒸気機関車を走らせているようだ。

場所はイギリス南部、ハンプシャー州にある。ロンドンから列車でおよそ2時間、オルトンという駅からニューアレスフォードというところまで乗る事ができる。時刻表をチェックすると、朝、ロンドンを出発して、半日堪能。夕方にはロンドンに戻る事が出来そうだ。

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と、いうことで2月の朝、ロンドン・ヴィクトリア駅に立つ。サウスウエスト鉄道でオルトンへと向かう。

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10時過ぎのディーゼル列車に乗り、揺られる事2時間。車窓にはイギリスの何にもない田舎町が過ぎ去って行く。日曜日ともあって「もしかしたら、保存鉄道目当ての行楽客で一杯では?」と思いきや、そんなことは無く、列車は終始ガラガラのまま。途中で一部の編成を切り離し、トコトコと走って行く。

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サウスウエストと保存鉄道は上手く行っていないのか、オルトン駅に列車が入って行くのと同時に、保存鉄道の蒸気機関車が走り去る…。しかし、窓の外から煙が見えるだけで、やや興奮をしてくる。仕方ないので、まずは煙だけが残るオルトン駅を歩いてみる。

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昔の、まさに鉄道模型のような作りの駅。売店で1日乗車券を購入。14ポンドで1日乗り放題だ。

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駅構内にも往時を偲ばせる渋いポスターが点在する。

カメラを構えてウロウロしていると、制服を来た車掌らしきオジさんが声を掛けてくる。

「君は純粋に写真を撮りにきたのかい?それとも、鉄道好きなのか?」

「もちろんエンスージャストですよ」

「日本もビュレット・トレインがあっていいじゃないか」

「でもこんな素敵な保存鉄道は日本には少ないな…」

小雪もちらついて、ドンヨリした雲が、いかにもイギリスらしい雰囲気を醸し出す。客もまばらだが、何より見せるためというより「鉄道文化を継承するため」に走らせている、という気概を感じさせる。

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そうこうするうちに蒸気機関車がバックで牽引して列車が入ってきた。

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すぐに機回し作業にはいる。「チェルトナム」と呼ばれる機関車、日本でいうと「B~~」と呼ばれそうな動輪が2つの車両。サザン鉄道で使われていた1934年製のものとか。

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正方向に連結されると、シューッと蒸気を噴き出し出発準備をする。まさに「ライブ・スチーム」。これだけでも見応えたっぷりだ。日本の蒸気機関車の走る所では、こういう時など人が鈴なりで写真を撮るのも大変だが、ここは人もまばら…。

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後ろに連結されている車両も古い客車が、当時のまま使われていて、スタイルもオープンタイプの客室から、コンパートメントまでさまざま。

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12時50分、列車は静かに走り出す。乗ってしまえば、先ほどのディーゼル列車と変わりはないが、のどかな田園風景に、機関車からの煙がたなびいてくる。

ほのかな炭の匂いもいい。途中駅に車庫があり、後ほど寄る事にして、まずは終点のニューアレスフォードに向かう。約40分程の道のりだ。

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駅には跨線橋があり、到着するや一人、一目散にその橋に上って上から目線で写真を撮る。ウォータークレス線はここで折り返し。

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辺りを包む煙と蒸気で、本当は結構気温も低い筈なのに、それを感じさせない。

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機回しを終えた列車は、再びオルトンへ向かって出発する。

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その様子を駅の隅から撮影。

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古びた腕木信号機に駅舎。長い時を経て大切に伝えられてきたことを感じさせる。

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駅舎のカフェで紅茶と軽いランチを食べると、再びオルトン方面から別の機関車がやってくる。

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こちらは日本で言う「C」級。旧サザン鉄道の「ネルソン」級の機関車だ。

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到着すると結構な勢いで、バックで機回しを始める。

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こちらの編成は食堂車が付いているようで、ランチとセットの列車のミニ旅行パックという風情。まとまった数の乗客が降りてきた。

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今度はこの列車に乗って、途中駅ロプリーに向かう。ここにウォータークレス線の整備工場、ワークショップがある。反対のホームに降りて、今乗ってきた「ネルソン」級を再び見る。

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丁度、往きに乗ってきた「チェルトナム」が走ってきて、横並びになり興奮も高まる。

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「チェルトナム」の方は再びニューアレスフォードへと走り去って行く。

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ロプリー駅に隣接したワークショップは、これまた何の制限もないところ。自由に見学してくれ、というスタイル。

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構内には丁度、「バトルオブブリテン」級なる機関車が整備中。

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「カナディアン・パシフィック」という別の機関車は、運転台に案内をしてもらえた。

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日本の機関車よりもややシンプルな雰囲気。しかし、緑のボディはピカピカに磨かれていて、保存状態は申し分ない、全くの現役だ。

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小一時間程の訪問ののち、オルトンへと戻る「チェルトナム」がやってきた。

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給水作業をみて、再び列車に乗り込む。時間はもう5時近い。

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名残惜しい思いを抱きつつ、再びオルトンに帰る。

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最後の機回しの様子を撮影して、1日を締めくくる。久々に体に染み付いた石炭の匂いを楽しみつつ、やはりイギリスの鉄道文化は奥が深い、と再認識した小旅行であった。

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